「別れの言葉」は言わない――劇場版『きんいろモザイクThank you!!』感想

 遅ればせながら、劇場版『きんいろモザイクThank you!!』を観ました。実は「きんモザ」はアニメ1期すら完走していないし、5年前の映画1作目「Pretty Days」も観ていないのに大丈夫だろうか……と思いつつ観に行ったのですが、とても楽しめました。
以下、ネタバレありの感想です。

 

 この10年来ですっかり定着した「日常系」というジャンルが向き合ってきたもっとも大きなテーゼは「日常の終わりをいかに描くか」というものだろう。たとえば日常系アニメの火付け役となった『けいおん!』は、卒業によって終わってしまう今の日常、そしてその寂しさと未来への期待が入り混じった少女たちの感情を見事に描いたし、近年放映された『まちカドまぞく』においては、「日常」それ自体の自明性を問うことで、「日常の有限性」が示唆されている。
 今回上映された劇場版『きんいろモザイクThank you!!』も、卒業という極めてオーソドックスな切り口ではあるが、一つの「日常の終わり」を描いている。着目すべきなのは、その主題自体よりも、シノやアリスたちが「終わりゆく日常」に対し、どのように向き合っているかだろう。
 本作は、全体を通して“異様なまでの明るさ”に溢れている。随所に散りばめられた畳みかけるようなギャグシーンは、少なからず観客の笑いを誘ったはずだ。私も例外ではなかった。しかし、思い返すとそれはあまりにも「過剰」な気がする。まるで終わりゆく日常、そして湧き上がる寂しさをなんとか振り切ろうとするがごとく……。
 また、シノたち5人はいずれも進学を選ぶが、同じ大学に行くわけではない。綾、陽子、カレンは同じ日本の大学に進学するが、シノとアリスはイギリスの大学に進学すると決める。たしかに作中でも言及されるように、交通手段が発達した現代において「日本とイギリスは案外近い」。そして今では言うまでもなく、インターネットを通じて、地球上のどこでもコミュニケートすることもできる。しかしこのように「物理的な近さ」が強調される一方で、本作では一緒にいるはずの彼女たちですら、潜在的に離れていることもまた示唆される。それを象徴的に表しているのが、アリスがシノに「卒業したらイギリスの大学に行く」ことを英語で告げるものの、シノはその英語を理解できなかったという場面だ。
 ずっと一緒にいても、まだ通じないこともある。だがそれはネガティブに解されるものではない。「まだ通じ合えない部分がある」からこそ、これからもまだお互いに「近づいていける」のだ。おそらく彼女たちは寂しさを振り切って、一貫して前を向こうとしている。
 それはもしかすると、少なからず「空元気」の部分もあるかもしれない。だがシノが言うように「ため息をつくと幸せは逃げてしまう」。だから決して「さよなら」とは言わない。卒業に際して口にするのは「これからもよろしく」なのだ。そして高校生活を思い出すとき、過ぎ去った日を惜しむよりも、彼女たちはこう思うのだろう――「ありがとう」と。